老いや病気の有無など関係なく
「その人らしく生きる」ための
自立支援

株式会社あおいけあ 作業療法士

神田 仁利 さん

Profile
島根県出雲市出身、本学2019年度卒。神奈川県藤沢市で地域密着型の介護事業を行う小規模多機能型居宅介護施設「おたがいさん」のスタッフとして高齢者の自己実現を通した自立支援を行っている。

現在のお仕事について教えてください。

主にデイサービス、ショートステイ(短期宿泊)、訪問介護の事業に携わり、それらを利用される高齢者の方々と日々接する仕事をしています。私たちの施設は一般の介護施設とは大きく異なっていて、決められたマニュアルはなく、生活の中で自立支援を促す介護を行っています。運動のために活動するのではなく、例えば春には桜を見るために散歩に行き結果的にそれが外を歩くという運動になっているというイメージです。利用者さんの多くが認知症を患っていますが、昼食の盛り付けや配膳、皿洗いなどは皆で一緒にしています。一日のスケジュールについても、スタッフが活動を決めるのではなく、利用者さんが「やりたい」と言ったことをベースに予定を組んでいます。

どんな時に作業療法士の専門性が活かされていますか。

寝たきりなどの介護度が高い利用者さんがいらっしゃった時の介助方法の技術的なアドバイスをしています。また、利用者さんがケガをした際、例えば指のケガであれば箸が持ちやすくなるような工夫するなど、「道具や環境を変えることでその人がどうやって自立できるか」ということを考えてほかのスタッフに指導することもあります。
病院と違って私たちの施設には退所という節目がないため、一人の利用者さんの長期的な変化をとらえる必要があります。「以前より食べ物を小さく切らないと食べられないみたいなので、このくらいとろみをつけよう」というように、作業療法士の視点から状態を評価してスタッフに伝えるということも重要な役割だと思っています。

今、介護の現場で働く中でどんな能力が求められていますか。

一番大切なのは利用者さんとの信頼関係を築くことです。 誰しも信頼できない人と一緒に過ごすことは嫌ですし、楽しくもありません。名前は覚えてなくとも顔を覚えてもらえれば「このスタッフといると安心できるし楽しい」と思ってもらえますし、具体的に何をしたかは覚えていなくとも「ここに来ると楽しいことができる」と思っていただけるよう努めています。 また、通って来られる方の変化に気づくことも大切です。話しかけた時の反応•無意識に行っている生活のルーティンなど普段の何気ない行動、姿勢や歩き方•服装などの外見から利用者さんの身体的•認知的機能の変化を考えて、その人に合った対応をすることがよりよりケアに繋がると考えています。
その他、特に私たちの施設では一日一日のスケジュールが明確に決まっていない部分が多いので、その場に応じて時間や役割分担などの段取りを決めてスタッフや利用者さん、外部との調整をするなど、周りを動かす力も求められます。

神田さんがあおいけあに就職しようと思ったきっかけはなんですか。

学生時代、シマリハに弊社の代表が講演に来ていてそれに参加したことがきっかけです。講演の中で「利用者本人のやりたいことを叶えるために、どんな方法があるかを探し出してそれを実現する」というあおいけあの考え方を知り、自分がシマリハで学んできた作業療法の価値観に合っていることに魅力を感じてインターンシップに申し込みました。一週間という短い時間でしたが、どんなことでも「認知症で、危ないからそれはさせられない」ではなく「どれだけ利用者さんのリスクを減らして、やりたいことを実現できるか」という姿勢を間近で学ぶことができました。

現在の仕事のやりがいを教えてください。

以前なら利用者さんを含めた旅行やイベントを開催していたのですが、今はコロナでなかなかそういったことが難しい状況です。そんな中でも、利用者さんが「やりたい」と言ったことに対してスタッフ全員でその準備をして、実際に利用者さんが楽しんでくださる姿を見る事が一番楽しいですね。
私は、作業療法士は「どんな手段を使ってでも、その人の“やりたい”を叶える仕事」だと思っています。病気やけがそのものを治すことができなくても、その人が使う道具を工夫し、環境を整えることでそれを叶えられる可能性を開くことで感謝されたり、笑顔になってもらえたりする時にこの仕事の面白さや、やりがいを感じます。

その一方で、苦労したことや悩んだことはありますか。

どれだけ利用者さん本人の要望があっても、もちろんかかりつけの病院や家族からのストップがかかれば実現が難しいこともあります。仕方のないことですが、そういった部分でもどかしく感じることはありますね。

神田さんのこれからの目標を教えてください。

将来的には、故郷である島根に帰り、介護保険の適用外のサービスを提供する事業所を立ち上げたいと考えています。通常の介護施設では、どうしても要介護の認定がおりないと利用できないといった制限があるので、要介護認定や年齢に関係なく、すべての人が関われるような事業所を開きたいです。
現在「おたがいさん」を利用している方でも、年齢は80代後半で認知症がありながらも、逆上がりができたり、大工仕事が得意だったりと、社会に出てもできることがいっぱいある方が大勢いるんです。たとえ認知症を患っている方でも、社会の人材資源として誰かの役に立てて生きがいを感じたり、対価を払ってもらえるような循環をつくれる拠点ができればと思っています。

最後に、作業療法士を目指す学生に向けてメッセージをお願いします。

作業療法には「こうでないといけない」という正解があるものではなく、自分の性格や長所を使った自由なアプローチができることが最大の魅力だと私は考えています。資格を取るために学校で学ぶ知識や技術だけでなく、自分がそれまでの人生で経験してきたことすべてを活かすことができるので、一人ひとりがその人にしかできない作業療法のやり方を持つことができます。この仕事には、人と関わることが好きで、人を幸せにしたいという気持ちさえあればどんな人でも活躍できるという面白さがありますよ。

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