現在のお仕事について教えてください。
作業療法士として病気や先天的な理由によって身体や発達に障がいを抱えている子どもたちの成長を支援する小児リハビリテーションに携わっています。子どもを対象としたリハビリへの関わり方としては、病院やデイサービス施設、学校の中の支援学級で働くという選択肢もありますが、わたしは子ども自身が一番長く時間を過ごす家庭でのサポートに魅力を感じたので、訪問による小児リハビリいう働き方を選びました。子ども一人ひとりがどのような環境で日々を過ごしているのか、実際の生活を見ることができることが訪問リハビリの良さだと考えています。
日々の仕事では、1日に4~5件の家庭を車で訪問します。およそ1時間という時間のなかでお子さんの体調や様子を本人やご家族に伺い、その状況に応じたリハビリを行っています。
実際のリハビリではどのようなことをされるのですか。
小児リハビリでは、さまざまなタイプのお子さんに接します。身体に障がいがあるお子さんには、運動を中心としたリハビリを行います。緊張して身体が硬くなっているお子さんが多いので、まずそれをほぐすマッサージを行い、一緒にipadを操作することで楽しみながら手と指の力をつけたり、生活に関わる動作として箸やスプーンを持つ練習をしたりします。
一方で注意力や集中力、学習能力などの発達面で問題を抱えるお子さんには、バランスボールなどを利用して、感覚を刺激するリハビリを取り入れます。なかには乳幼児の頃からリハビリを受けるお子さんもいて、発達を促すような寝返り動作の練習をさせていただくこともあります。
担当しているお子さんの中には学校に通っている子もいるのですが、学校の先生から「給食をうまく食べてもらう方法はないですか」という質問が来たこともありました。そうした時には実際に学校に出向いて、「イスがその子に合っていないのではないか」、「テーブルの高さを高くしてあげると食べやすくなるのではないか」といったその子にとって良い環境を整えるためのアドバイスをすることもあります。
それぞれのお子さんが短期目標や長期目標をたてて治療やリハビリに取り組んでいるので、定期的にご家族と主治医の先生、そのお子さんに関わっているデイサービスの職員や介助ヘルパーの方などの専門職の方々と一緒に担当者会議を開き、状況を共有しながらリハビリの計画を立てて進めていきます。
お子さんの状況によって、幅広いアプローチをとられるんですね。
この仕事に就いてから、作業療法士としての知識・技術だけではなく、幅広い分野について学び、スキルを身につける必要があることを強く感じています。身体の障がいをもつお子さんに対しては手や足を動かすといった理学療法のアプローチもとっていますし、子どもとのコミュニケーションについて、子育てや保育に関する勉強をしています。
春日さんが小児リハビリテーションの道に進んだきっかけは何ですか。
もともとは理学療法士になりたいと思っていたのですが、私の親族に障がいを持ったお子さんがいて、その子が作業療法士に遊びを取り入れたリハビリを受けているというお話を聞いたことで、作業療法士の働き方と小児リハビリに興味を持つようになりました。もともと、ものづくりが好きだったこともあって作業活動を通じたリハビリを学びたいと考え、島リハの作業療法学科に入学しました。
島リハでは保育所実習のほか、学校にお子さんを招いて一緒に遊ぶことでコミュニケーションのとり方を学ぶ授業もあり、子どもと接する力を身につけることができました。また、授業の中でリハビリを目的としたおもちゃをつくる機会があり、そこで学んだことを活かして今でもおもちゃを手づくりして実際のリハビリに活用しています。
お子さんとのコミュニケーションについて、工夫されていることはありますか。
たとえば発達に問題のあるお子さんには、混乱を防ぐために訪問して最初に「今日はこういうことをします」という予定を伝えるようにしています。特に言葉でのコミュニケーションが難しいお子さんには、イラストつきのカードをつくります。絵にすると理解しやすいお子さんが多いのですが、たとえば、好きな遊びがいろいろ書いてあるカードを準備してその子にあらかじめ渡しておくと、その子が私たちにカードをくれることで「この遊びをしたい」という意思表示をしやすくなります。
コミュニケーションについていえば、ご家族との関係の築き方もとても大切なことです。
特に初めてのお子さんだと子どもとの接し方や今後の成長について気がかりに感じておられるご家族が多いです。その不安を取りのぞいて差し上げられるように最初の訪問からお子さんについての情報をヒアリングして「どんな遊びが好きか」、「どんな状況で混乱してしまうことが多いか」、「今後、どんな風に成長していってほしいか」など、じっくりとご家族からお話を聞き取り、アドバイスができるように心がけています。
そうしたスキルは、どのように身につけていったのですか。
入社しておよそ半年の間は毎日先輩方の訪問に同行させていただき、先輩方のリハビリや子さんたちとのコミュニケーションを間近で見てしっかり学んでいきました。今では少しづつ一人で訪問させていただくお子さんが増えてきて、悩むことも多いですが、そういう時にはやはり先輩方に相談にのっていただいて「こういう工夫をしてみるといいよ」といった助言をいただいています。
やりがいを感じる瞬間はどんなときですか。
リハビリの仕事の魅力は人の変化に立ち会えることだと思いますが、子どもは特に成長がはっきりとしぐさや行動に表れるので、日々お子さんと接する中でその変化を目に見えて感じられることが大きなやりがいになっています。少しの時間もじっとしていることが難しかったお子さんが、リハビリを重ねていくうちに前よりも落ち着いてイスに座っていられるようになったり、ご家族から「普段の生活でこういう点が良くなりました」と言っていただけたりすると、とても嬉しいです。
これからどんな療法士をめざしていきたいですか。
お子さんやご家族に喜んでいただけるよう、お子さんの成長を全力で手助けしていきたいと考えています。リハビリを通じて関わっていくと、子どもが大きく変わっていく、その変化に立ち会うことができます。そうしたお子さんの成長を心から楽しみにしています。