けがをした選手が、
再び試合で活躍する姿のために。
トレーナー活動を通して
地域に貢献していきたい

出雲市民リハビリテーション病院 理学療法士

倉橋 篤司 さん

Profile
島根県出雲市出身、本学2012年度卒。回復期リハビリに携わりながら、出雲市の中学生サッカークラブチームの専属トレーナーとして契約。選手のトレーニングや障害予防等に対するサポートを行っている。

現在のお仕事と、スポーツトレーナーとしての活動について教えてください。

出雲市民リハビリテーション病院で理学療法士として働きながら、中学生が所属するサッカークラブチーム「サンフレッチェくにびきFC」の専属トレーナーとして活動しています。週1回のペースで病院勤務後に夕方から行われる平日練習に参加し、けがをした選手のトレーニングや練習中のウォーミングアップやストレッチの指導を行うほか、週末には試合に帯同してチームをサポートしています。

トレーナー活動ではどのようなトレーニングを行うのですか。

普段の練習日には、けがをしている選手がいる場合はその選手とのマンツーマンでのトレーニングを行います。練習に参加する前に選手にけがの状態を確認し、事前に病院で医師の診断を受けている場合にはレントゲン写真などを見ながら状況に応じて、けがをより悪化させないようにリスク管理をしながらトレーニングを実施します。中学生は身体の成長段階にあり、骨の成長に筋力が追い着かずにねんざや骨折、腰の分離症などのけがをおってしまうケースが多いですね。 たとえば、ねんざをした直後の選手は地面に足をつけるだけでも痛みがあるので、体重をかけずに足首を動かしたり体幹や心肺持久力を高めたりする内容のトレーニングを行います。 そうしたトレーニングを必要とする選手がいない時にはウォーミングアップの時間や練習の合間にアジリティトレーニングといって素早く動く力を高める指導などを行っています。 また、中学生1年生ですと、けがを報告せずにそのままにしている選手も少なくありません。そのため、けがに対する意識教育といった点では1年生の頃が特に大切な時期であると考えています。今後選手が高校やプロの道に進むとき、現場で伝えたことがいつか何かの形で役立てば嬉しく思います。

倉橋さんがトレーナー活動を始めたきっかけは何ですか。

活動を始めたのは、就職して2年目の秋ごろからです。学生時代からサッカーをしていて自身がけがを繰り返していた経験から、スポーツトレーナーとしてサッカー選手のサポートに関わりたいと考えていました。その頃、出雲でタイミング良くサッカーに関するトレーナー講習会に参加する機会があり、そこで今関わらせていただいているクラブチームの監督とお話をしたことがきっかけで、今の活動が始まりました。

トレーナー活動を行う上で、心がけていることは何ですか。

人と人とが関わる仕事なので、一番大切なのはコミュニケーションだと考えています。監督やコーチ、選手一人ひとりに対して「普段と何か変わったことはないか」、「今の選手の状態はどうか」など、自分自身がトレーナーとして関わっていく上でなにか必要なことがないか常に意識しています。練習中や試合の際には、状態の悪い選手がいたらすぐに監督やコーチとコミュニケーションを取り迅速な対応を心がけています。
病院での経験がトレーナーの現場に活かされていると思うこともあります。患者様からけがや状態に関する情報を聞き取る際に、初めから「どこが痛いか」という聞き方をすると痛みに対する不安感、恐怖感が強くなってリハビリに対して前向きになれない方がおられます。そのため患者様が話をしやすい問いかけ方を心がけているのですが、こうした「どのように情報を引き出すか」というコミュニケーションの技術はトレーナー活動でも必要ではないかと考えます。
中学生は特に思春期ですから、痛みや状態について自分から発信できる子、そうでない子、いろんなタイプの選手がいます。本人の中ではけがをしたことについて「しまった」と思っている面もあるのかもしれませんが、けが自体は起きてしまったことなのでこれからどうしていくかということをしっかりと伝えて、選手がけがに向き合い、復帰に対して前向きになれるよう声をかけていくことを心がけています。

病院での仕事とトレーナー活動、その両方に関わることが理学療法士としての成長につながっているんですね。

そうですね。いま、仕事では回復期のリハビリに関わっているのですが、トレーナーの現場では選手同士の接触による出血や打撲、熱中症や体調不良などといった突然発生するけがや疾患への迅速な対応が求められます。普段の仕事では、急性期病院と比べて頻度は少ないかもしれませんが、回復期病院でも急変に対する最初の対応者になる可能性もあるため、対象が選手でも高齢者でも命を守る為の準備は必要になります。

こうした働き方について、職場ではどのように受け入れられているのですか。

法人内には、ほかにもスポーツトレーナーとして活動しているスタッフがおられますし、理学療法士の職域の拡大・地域貢献として職場から理解をいただき活動をしています。休日に長期でクラブチームに帯同する際には、上司に相談をしてお休みをいただくこともあります。理解のある環境でスポーツに関わる活動ができ、とてもありがたく感じています。 また、毎週火曜日には同一法人の出雲市民病院で夜間スポーツ外来に携っており、そちらでもスポーツをしている選手たちやお子さんのリハビリに関わらせていただいています。

島根県では、スポーツリハビリテーションはどのくらい盛んに行われていますか。

2015年に島根県でスポーツに関わるトレーナーの質を高め、島根のスポーツ医科学の発展に貢献しようと「島根県アスレティックトレーナー協議会」が発足しました。私自身、これまで現場に出ていて知識と技術の不足を感じていたので、講習会に参加して島根県アスレティックトレーナー協議会認定トレーナーの資格を取得しました。今後も自身の活動を通して、けがに苦しむ選手を1人でも多く減らしていきたいです。 また、他県では当たり前のように様々な競技にトレーナーが関わっているほか、中学・高校の部活動にトレーナーが在籍していることも珍しくないです。今後も島根でもっと多くのトレーナーが増えることを期待しています。

やりがいを感じる瞬間はどんなときですか。

一番は、リハビリを通して関わった方々の笑顔と喜びの声をいただけることです。患者様であれば、入院していた方が自宅に帰って今まで通りの生活ができるようになったことで感謝の言葉をかけていただけることで仕事のやりがいにつながっていますし、トレーナーの現場では選手が競技復帰するまでのサポートに関わる中で、けがをしていた選手が試合に出て活躍している姿を見ると、「ここまでやってきてよかった」とやりがいを感じます。

これからどんな療法士をめざしていきたいですか。

今は、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー資格の取得をひとつの目標にしています。また、病院の中で各分野別に専門チームをつくり、病院内の療法士全体の知識・技術を向上させていこうという取り組みがスタートしたのですが、私はその中で運動器分野のチームのリーダーになりました。 一番にめざすところは「患者様が笑顔になれること」。これまで病院とトレーナー活動を通して培ってきた経験から得た知識・技術を全体に共有していきたいと考えています。

最後に、療法士を目指す方に向けてメッセージをお願いします。

トレーナー活動を行う上で3つ大切にしていることがあります。まずは選手のために力を尽くしたいという情熱の気持ち。その為に日々の自己研鑽や同じ方向に向かって努力を続けるトレーナーの先輩や同志との繋がりや情報交換などの時間を大切して現場に出ています。2つ目は、健康面での自己管理です。現場は天候や気温の変化が様々でそれぞれのケースに応じた体調管理が大事になると考えます。例えば感染対策として、選手にマスクの着用やうがい、手洗いなどの予防を指導すると同時に自分でも徹底して行っています。そして3つ目は、感謝の気持ちです。今、仕事とトレーナー活動を両立させていただいているのは周囲の支えがあってのことで、決して当たり前のことではありません。 これから療法士を目指すみなさんにも、日々、感謝の気持ちを忘れずにこれから関わる沢山の方々とのご縁と繋がりを大切にしていただきたいです。

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